「社会保障制度改革」に関する提言(2001年)

2001年8月20日

内閣総理大臣 小泉 純一郎 様
厚生労働大臣 坂 口  力 様

高齢社会NGO連携協議会 有志一同
代表 久野木行美
代表 堀 田 力

「社会保障制度改革」に関する提言

はじめに

高齢社会NGО連携協議会(高連協)は、「すべての世代の人々が安心して暮らせる社会」を実現させるため、高齢者としても必要な負担に応じつつ、積極的に社会的役割を果たすことを望んで、次のとおり提言する。

1. 改革により目指す社会
高齢者を含め、すべての人がいきがいを持ち、安心して暮らせる社会をつくる。

2. 制度改革の基本理念
(1) すべての人が尊厳を持ち、自立に励みつつ、助け合って生きる社会にするため、制度は、自助を基本としつつ、共助の仕組みで自立を援け、その及ばざるところを公助によるものとする。

(2) 制度は、公平かつ透明で、わかりやすいものとする。

(3) 制度は、国民が協力、参加しやすいものとする。

3. 改革の基本的手法
国民の協力、参加を得るため、まず、あるべき制度の姿について合意を得、現制度を、可能なところからこれに近づけるべく、改革していく。

4. 社会保障制度全体の改革についての提言
(1) すべての人々の安心と協力、参加を得るため、社会保障における「負担と給付」の内容を、将来にわたって示す。
その内容は、将来目指すべき「釣鐘型の安定人口構造」(注1)を想定して、尊厳ある生き方を保障するために最小限度必要という観点から給付の内容を定め、これを各世代がどのように負担するのが公平かという観点から、負担の内容を定めたものとする。
その上で、人口構造の急激な変化に伴い、釣鐘型人口構造におさまりきれない「団塊世代」やその子世代等の社会保障費については、世代間の負担を公平にするため、同世代で負担を分かち合える相続税増収分等を充てることとする。

(2) 実状に合わせて、高齢者の定義を70才以上に改め、必要な経過措置を講じつつ、制度と社会の意識とを改めていく。

(3) 社会保障制度を公平かつ透明でわかりやすいものにするため、これを体系化するとともに、関連する制度は統合し、その徴収事務も、可能なところから一元化する。あわせて経済財政諮問会議提案にかかる「社会保障個人会計」(仮称)の具体化を図る。

(4) 社会保障の体系的統合化は、住民の理解と参加を得るため、市区町村およびその広域連合・統合体(地域自治体)を保険者等とすることにより行う。その際、社会保障費を目的とする消費税等の課税権限を、地域自治体に付与する。

(5) 個人の自立を促すため、社会保障制度の負担及び給付の単位は、個人化する。

5. 年金制度の改革についての提言
(1) 住民の共助の精神を確固たるものとし、かつ年金制度を公平にしてわかりやすいものとするために、年金制度の一元化を目指し、加入者は、所得のあるすべての成人とする。

(2) 年金受給者が自立と共助の精神を持つために、年金に対する課税上の優遇や調整措置を廃止すると共に、年金受給者も、所得に見合う社会保障料(料率に従う)を負担するものとする。

(3) 雇用者の社会保障料を納入しない事業主は、保険料同等額を給与と合わせて支給する。

(4) 各種年金保険の保険料、給付額、積立金運用などの内容を広く公開する。

6. 医療制度の改革についての提言
(1) 釣鐘型の安定人口構造が概ね実現されるまでの間の特別な措置として、後期高齢者(75才以上)を対象とする老人医療制度を設け、安定人口構造における負担を超える分について公費を投入することは、世代間の公平のため、当面やむを得ない。

(2) 医療と介護は極めて密接な関係を有するところから、釣鐘型の安定人口構造社会が実現したあかつきには、老人医療制度を含むすべての医療保険制度と介護保険制度を一元化する。

(3) 国民健康保険を取り扱う地域保険組合においては、小規模な地域保険組合を統合して、財政基盤の強化と運営の効率化を図る。

(4) 医療費を適正にし、負担について国民の理解を得るため、保険者等が診察内容をチェックする体制を整備すると共に、受診者等が十分にチェックできるよう、医療情報を徹底的に公開する。同時に、診療報酬の定額払いの拡大や薬価基準の適正化等、医療費の合理化を進める。

7. 制度改革と併せて促進すべき施策の提言
(1) 社会保障制度が健全にセーフティネットの機能を果たすためにも、高齢者等が、いきがいを持ち、快適かつ健康に暮らせるよう、次のような仕組みをつくる必要がある。

① 自助といきがいづくりのための就労の促進
性や年齢にかかわりなく能力に応じて就労できる仕組みをつくることとし、当面、定年延長、定年後再雇用、柔軟な勤務条件の設定、ワークシェアリングなどとあわせ、高齢者による起業への支援、行政による高齢者の知識や経験を生かすための雇用等を進める。

② いきがいづくりのための社会貢献活動の促進
高齢者は社会貢献活動を行いやすい環境をつくることとし、NPO・NGOによる雇用や謝礼金(スタイペンド等)(注2)支給の機会を増やすため、NPO等に対する税制上の優遇措置を大幅に拡大し、また、行政においてもスタイペンド等を採用する。

③ 健康づくりの促進
ホームドクター制の普及や健康管理センターの整備、特に医師・保健婦・NPOなどによる地域健康推進ネットワークづくり等により、健康寿命を延ばす。

④ 安全にして快適な居住環境の整備促進
住宅改造の促進、グループ・ホーム等の整備、高齢者などが参画して行うまちづくり等により、すべての人に対して安全で快適な居住環境をつくる。

⑤ 高齢者が所有する不動産のフロー化の推進
資産は所有しているが、収入が乏しい高齢者の、自助努力による生活の質向上を支援する
ために、リバース・モーゲッジやビアジェ(注3)等による、所有する不動産のフロー化を推進する。

⑥ 高齢者に安全と快適さをもたらす産業の活性化
社会保障制度の改革により高齢者の資産保有の必要性は減少するが、それによって、安全  で快適な生活が実現する産業の活性化を図る。

(2) 社会保障制度について、すべての世代の人々の理解と共感、協力と参加を得るため、制度の意義、内容、現状と見通し等のほか、制度理解の前提となる「個人と社会の関係」「人の生き方―自立自助と共生共助」等について、児童をはじめすべての世代の人々に対する教育を行う。

この提言が、高齢者を含むすべての世代の男女が共同参画し、政・官・産・学の協力によって、実現することを願っている。
以上

注1) 人口構造について
世界の人口構造は、少子化高齢化の進行に伴い、先進諸国から順次、ピラミッド型から釣鐘型へと移行しつつある。わが国においては、その変化があまりにも急激であったため、人口構造に歪みがある。とりわけ、「団塊世代」とその子の世代人口は大きくなっている。また、近年は出生率が低下し、人口構造はつぼ型(下つぼみ型)の状況にある。しかしながら、出生数そして出世率が安定してくれば、やがて釣鐘型人口構造社会になる。(‘90年以降の出生数は120万代から110万代で推移している)
釣鐘型人口構造では、世代ごとの人口はほぼ等しく、年金制度も賦課方式で公平性が保たれる。したがって、団塊世代等人口の大きい世代は同世代の支え合い(相続税増収分の充当など)や、一時的公費負担も必要である。
出生率を安定させるのは、人類の存続意思によるが、現状では、子供を産みたい女性の意思を妨げる社会的要因を除去する政策を積極的に推進するとともに、将来像のある社会環境をつくることが必要である。

注2) 謝礼金(スタイペンド)制度について
アメリカが、1990年ボランティア振興法(National and Community Service Act)によって採用した制度で、社会貢献活動をした一定の者に対し、サラリーの最低基準(最低賃金)を下回る程度の謝礼金(Stipend)を支払うことなどを定めた。

注3) ビアジェについて
ビアジェは、フランスの制度で、リバース・モーゲッジ(住宅等不動産を抵当信託して、老後の生活費を保障してもらう)と異なる点は、契約時に不動産の所有権が移転し、同時に、売主である高齢者にその死亡時までの居住権が付与されることである。これにより、「長生きのリスク」は、リバース・モーゲッジと異なり、買主が負担する。

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