別の視点からの格差論

近年、格差議論が盛んで、2001年ノーベル経済学賞受賞者ジョセフ・E・スティグリッツは1%の最上層と99%のそれ以外の層との格差問題を訴え、長期にわたる富と所得の格差の深刻化要因に制度的文脈を与えたトマ・ピケティ著『21世紀の資本』が話題となった。

今夏、ハワイにおける「世代間連合国際会議」で私がその特別講演を聴く機会を得たロバート・パットナム ハーバード大学政治科学教授は、子どもは親を選べず、勿論、生まれ落ちる先のさまざまな環境に関して本人の選択権など全くないため、米国の経済・政治・社会が加える害のうち子供たちが被る害には特別の配慮を要するとの見地から、子どもたちの機会蓄積に関する不平等に焦点を当てて格差問題を取り上げた。彼は、米国では99%のうち貧困層の子どもと富裕層の子どもの間に、幼児の時から知的・文化的・社会的能力格差が生じ、学校がその格差を拡大させ、「機会の不平等」が生じ、貧困層家庭の子どもたちは貧困層に留まるという、世代を超えて固定化された格差社会になってしまっていると、フィールドワークをベースにあらゆる研究や統計資料を活用・駆使して検証している。

パットナムは、子どもたち間の格差をもたらした根因を、20世紀最後の四半世紀の国際化の激化や21世紀初めの大戦後最大の不況による労働者階級家庭の崩壊、中間所得層の縮小、延いては19世紀から米国社会に根付いたコミュニティ等により支えられたソーシャルキャピタルの崩壊を挙げる。(因みに、米国調査機関ピュー・リサーチ・センターは、中間所得層比率は1971年61%、1991年56%、2015年50%であると報告している)。

米国経済社会の最近の動向に対し、パットナムは(1)貧乏な子どもたちは他人のではなく、われら(社会)の子どもであるとの認識を持つこと、並びに(2)公平、均等に与えられた機会の活用によって実現できるアメリカンドリーム再現を基本的視点として、①安定的所得確保・弾力的な労働の実現、②費用が手頃で、質の高い幼児教育(保育)、③学校への投資拡大、④コミュニティの再生という4つを柱に、具体的に社会・福祉政策の実施を社会に提言し、バラク・オバマ大統領にそれらを次の大統領選の論点にすべきと訴えている。

翻って日本に着目すると、中間所得層の割合は、1985年57%、1991年53%、2012年50%と低下しているとの試算もある。一方、子どもの相対的貧困率は1990年代半ばから概ね上昇傾向にあり、2012年には16.3%となり、海外比較をすると、OECD調査では、子どもの相対貧困率は日本が15.7%(2009年)で34か国中25位。米国は21.2%で30位である。日本にとっても貧困に起因する子どもの不平等問題は決して対岸の火事ではない。市場による社会調整だけでは万人に幸福をもたらさないという米国の教訓に鑑み、日本でも地域の共助力の再向上と将来世代の厚生拡大に向けた公共政策を重視するパットナムの政策視点を導入すべきである。地球温暖化と同様、不幸な子どもが成長して親となる将来に起きる危機に備えて、今施策を打ち、子どもの格差の悪い連鎖を断ち切らなくてはいけない。        <玉木>

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