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韓国老人長期療養保険の運営と財政安定化方案

鮮于 悳(Duk SunWoo、Ph.D、研究委員)

韓国保健社会研究院長期療養保障センター長

エイジング総合研究センター委嘱研究員

Ⅰ.緒論

 韓国は2008年下半期から老人長期療養保険制度(日本の介護保険制度に当たるが、これから療養保険と表記する)を第5番目の社会保険として実施しており、導入後1年が経った時点で主な施行結果、あるいは成果が発表された。制度の導入直前までは給付対象者の割合や療養サービス単価(日本の介護報酬に当たる)などを中心として保健福祉分野の専門家や療養施設長から多くの議論がなされたが、政府の調査結果によると、利用者や家族からのサービスに対する満足度は高い。現時点では少なくない課題がまだ残っているが、全般的な制度の枠組みや運営に対しては一端成功だと言われているようである。

しかしながら、このような保険制度の運営を先に経験した日本、ドイツやオランダ等の事情からみると、これからは保険財政の安定化に多くの努力がもとめられる。このレポートは日本をはじめ先進諸国の経験を参考にしながら、その財政の安定化に焦点を当て、今後の韓国の長期療養保険制度体系づくりについて考察するものである。

 II. 老人長期療養保険の導入に影響を与えた人口社会的環境の変化

 各国と同じように韓国においても介護制度づくりを必要とした社会要因としては概ね三つが挙げられている。

一つ目は、後期高齢者を中心とする高齢者人口の増加である。韓国の場合、日本に比べて高齢化率が低いが(図1)、高齢化のスピード、特に後期高齢者の増加が急激である(図2)。しかし、高齢化のスピードに関しては、2005年度から合計特殊出生率が徐々に回復していくので、今までの状況とは違って鈍くなる可能性がある。その反面、高齢者の数は平均寿命の伸長に伴い増加していくのが実情である。特に指摘したい現象としては、高齢者人口の増加に伴って認知症患者も増えていくことである。韓国における高齢者の認知症有病率は2008年度8.4%となっており、2012年は9.08%、2020年は9.74%になると予測されている(韓国保健福祉家族部の発表資料)。

二つ目は、成人子供と同居をしていない高齢者が増加していくことである。ちなみに、2008年度、高齢者世帯の中で約2/3が一人暮らしと夫婦のみの高齢者世帯で占められている。この割合は1998年度の調査以来高まってきている(図3)。こうした世帯では高齢者が要介護状態になれば、直ぐに介護問題を来たすことを意味する。そして既に、韓国においても老老介護の問題が出始めている。

三つ目は、核家族化の拡大とともに家庭での介護力が劣化していることである。韓国における介護者の続柄をみると、2008年では配偶者が全体の46.9%、嫁が30.0%を占めており、両方を合わせると約8割弱の割合である。女性の家族介護者は無報酬の労働で働くので、介護者であっても日中は概ね仕事をやっており、全日介護することは多くない。

 図1図2図3

資料:全国老人生活実態と意識調査(韓国保健福祉家族部)、1998、2004、2008.

    それ以外としては、中産階級の高齢者やその家族が担ってきた介護費用が、値段の高い民間サービスしか利用できなかったため、家計経済において過重になっていたことと、また、病院での治療後の社会的入院などによる老人医療費の持続的な増加が挙げられる。

   こうした背景によって療養保険制度は導入された。既述した人口・社会状況要因は今後とも急変することはないので、現行制度では今後に財政的不安を抱えていると思われる。

 III. 韓国老人療養保険制度の主な内容

  1.制度の主な内容

韓国の療養保険制度は社会保険型で運営されており、財源の6割以上を被保険者からの保険料に賄われている。残りの4割弱は国と利用者の負担金が占めているが、国は公共扶助の生活保護者など低所得者の保険料にあたる費用を負担している程度である。従って、中産階級の所得者の場合は国からの支援がないと言える。ここで、2010年度の療養保険料率は6.55%になっているが、これは被保険者所得の0.349%(平均値)に当たっている。

韓国の療養保険は健康保険とよく連携されているといえる。すなわち、健康保険加入者は自動的に療養保険に加入することになっており、療養保険制度の保険料は加入者自分の健康保険料に基づいて算定することになっている。また、療養保険制度の保険者は、健康保険の保険者である国民健康保険公団としている。しかし、サービス側面からみると、利用者が両保険の被保険者なのに保健Ÿ医療Ÿ療養サービスの連携がよく行われていないという問題点が残っている。

療養保険給付を受給するためには健康保険とは違って、受給対象者としての認定を受けなければならない。65歳未満の加入者は痴呆や脳卒中などの老人性疾患を患っていることを前提としている。このことは、療養サービスが元々疾病であれ、高齢であれ、終末期での高齢者に対するお世話だったので、高齢者向けのサービスとなっているからである。従って、高齢者でない成人は、高齢者でなくても老人性疾患を患う場合もあることで、老人性疾患の保有を前提として受給権を与えられていることである。それでも、受給対象者は身体Ÿ認知機能の障害状態などによって三つの等級に分けられる。しかし、老人性疾患を患っていない成人は被保険者になっていても療養保険給付をもらうことができない。その代わりに障害者福祉サービス[1]を利用することができるが、そのサービス内容や受給者範囲が療養保険サービスとは違っているので、限界がある。

療養保険給付は施設給付としての老人療養施設と老人療養共同生活家庭(いわば、9人未満規模の小規模施設)でのサービス、在宅給付としての訪問療養(ホームヘルプ)、訪問沐浴、訪問看護、昼夜間保護、短期保護、福祉用具貸与などのサービスが中心となっており、その以外には島や僻地に住んでいる家族による介護を現金(cash)で支援する家族療養費が備えられている。そのような給付サービスを利用する時、利用者[2]は施設給付額の20%、在宅給付額の15%を事業者に払っており、事業者としては残りの金額を保険者に支払いをされることになる。

    2.療養サービス伝達体系

   療養サービスは前述したように被保険者が願っているとき誰でも受けることができるものではない。そのようなサービス伝達方式は次のようである。

   まず、被保険者は受給対象者としての認定をうけるために認定申請書と医師所見書を備えて保険者である国民健康保険公団の各支社(概ね、市町村別に設置されている)に出さなければならない。ここで、医師所見書に書かれている内容をみてから64歳以下の申請者が老人性疾患を患っているかどうかをも予め把握することができる。このようなことは申請主義方式なので、高齢者として機能障害をもっていても申請しなければサービスが提供されない。それで、寝たきり状態(bed-ridden)の高齢者に不利にならないように家族などの代理人が代わって申請してもよい。

   保険者は申請者本人の機能障害状態を調べるために保険者所属の訪問調査者(全てが社会福祉士や看護師の資格証を持っている)を派遣しており、調査内容に基づいて機能障害状態を五つの等級[3]に分けている。これが一次判定と呼ばれているが、PCプログラムによって行われている。ここで、調査項目は身体機能(12個)、認知機能(7個)、行動変化(14個)、看護処置(9個)およびリハビリ処置(10個)にあたる項目に構成されている。そして、 概ね市町村別に設置されている長期療養等級判定委員会で一次判定結果と医師所見書などにもとづいて最終的に等級を確定する。そのような各委員会は医師、看護師、社会福祉士などを含めて概ね5人程度の委員に構成されているが、委員会の役割は一次判定の調整を果たすようになっている。保険者は等級判定結果書と標準長期療養利用計画書(これは認定者に限る)を申請者に送付する。

   受給対象者(認定者)としての認定をうけると、本人の希望によって施設サービス、あるいは在宅サービスを選んで事業者との契約で利用すればよい。一般所得水準の利用者は全国にあるどの施設でも保険サービスを受けることができるが、低所得者の場合は住む地域にある施設に限っている。これは低所得者の療養費用の一部を自治体が負担しなければならないからである。特に、在宅サービスを利用するときには一ヶ月に使える金額の限度が定められているが、その限度額の大きさは施設給付額に似ている。これは自宅でも施設給付に準するサービスをうけることができるようにして施設入所を抑制する必要があるからである。従って、受給者(利用者)が負担する費用は法定自己負担金と月限度額の超過額と施設での居住料(部屋代)と食材料費、そして非保険サービス費用となっている。

   長期療養サービス事業者はサービスごとに定められているサービス単価に基づいて算定された金額を保険者に請求し、審査後に支払われることになる。ここで、サービス単価は等級別日当たり一定額か、サービス時間か、あるいはサービス回数によって定められている。

   最後に身体介護のサービスはかならず、療養保護士資格証をもっている専門人力が提供するようにしているし、療養サービスを供給しようとする者は非営利や営利の目的を問わず、保険者から事業者としての指定を得ればよい。今の時点では営利追求の民間事業者の比重がもっと高い実情である。


[1] 2008年度から障害者向けの療養サービスとして活動補助サービス制度が行われている。

[2] 公的扶助者やその次上位低所得者(医療扶助者)の場合は本来の利用者自己負担率の1/2に軽減されている。

[3] 等級区分は機能障害度やサービス時間などに基づいて算定された点数によて決められる。即ち、95点以上は1等級、74~94点は2等級、55~74点は3等級、そして54点以下は非該当となっている。厳密にいうと、受給者範囲の拡大に備えて、45~54点はA型、40~44点はB型、40点未満はC型に区分されている。

 IV. 韓国老人長期療養保険制度の財政支出とその決定要因

 1.財政支出の実態

韓国老人長期療養保険制度の財政を安定化させるためには、まず財政支出の動向から検討しなければならないと考える。制度施行から1年が経ったので、そのデータに基づいて検討してみるが、元々財政に影響を及ぼす制度的要因は加入者(消費者)側、サービス提供者(供給者)側および保険者(政府を含む)側から探ることができる。

まず、加入者側からみると、財政支出に影響する主な要因としては認定者数及びサービス受給者の増加が挙げられる。療養保険制度の施行直前に政府が予測した認定率は全体高齢者人口の3%程度であったが、一年後には5.2%まで増えていることが見られる(図6)。特にその中でも3等級(中度)者の増加率が一番高い。それは、3等級以外の者の中で介護ニーズがわりに高いと判定された非認定者[4]を3等級に入れ替えたためだと言われている。そして、サービス利用率(サービス受給者数/認定者数)の増加も短期間で非常に高くなっている。即ち、政府の発表資料によると、療養保険制度の施行直後にはサービス利用率が全体認定者数の52%ぐらいだったのが、一年後には78%まで一気に伸びた。現在は8割前後で横ばいとなっている。しかし、療養等級別および所得水準別利用率の差が見られているので、サービス利用における非公平性問題が問われている。

次に供給者側からみると、まず財政に影響を与える要因として、各種施設数の急増が挙げられる。このことは、利用者が様々な供給者を選ぶことができるということで選択性が与えられるので、望ましいけれども、適正水準以上の施設数は介護ニーズを掘り起こせる可能性があることも留意しなければいけない。実際に訪問療養サービス事業者数が多い地域であるほど要介護認定者率も高くなるという分析結果が出ている。そのような施設の増加現状をみると、療養(入所)施設の場合は約1年間において1.6倍にとどまっているが、在宅サービス事業者の場合はサービスの種類によって異なるが、概ね1.8~5.9倍も増えたことがわかる(図7)。特に営利追求を目的とした民間事業者数の急増が著しい。従って、供給者によっての誘因需要(supplier-induced demand)現象が生じうるし、そのことによって望ましくない財政支出となる可能性がある。


[4] 1等級者は認定点数が95点以上の場合、2等級者は認定点数が75~94点以下の場合、3等級者は認定点数が55~74点以下の場合となっているので、50~54点以下の非認定者も介護ニーズは高い。

 図6図7

注: 2008.6月=100.0

資料:韓国保健福祉家族部、老人長期療養保険の1年成果(報道資料)、2009.6.

  最後に保険者側、あるいは政府側からみると、財政管理の拙さによって給付支出の増加が生じる可能性がある。今までの1年間で出てきた課題は、介護報酬や保険料の連続的な引き上げ、在宅サービス中心政策とケアサービス質管理と介護サービス支援などの不足が挙げられる。特に日本の経験を参考として療養(入所)施設での平均入所期間をみると、4.01年であり、要介護度5の人が5年間以上住んでから退所したのが全体の3割弱を占めた結果である(2007年度、厚生労働省資料)。確かに施設給付中心の介護政策は財政安定には望ましくない。

ここで、韓国老人長期療養保険制度における財政安定にマイナスの影響を及ぼす要因をまとめてみると、一番目として、認定者数の持続的増加、特に中度認定者(3等級)の急増が挙げられる。特に、高齢者数の自然的増加以外に、政府が2012年度から4等級者(軽度者)にも保険給付を提供する方針を立てているので、当分の間、サービス受給者の増加は続くであろう。二番目として、介護インフラ間の不均衡によるケアサービスの創出が挙げられる。確かに民間サービス事業者の場合、過剰になっており、手厚いサービス提供による介護サービス提供期間の延びも起こる恐れがある。三番目に、利用者中心のケア体系(consumer-oriented care)の不足が挙げられる。例えば、充分なケアカウンセリングやケアマネジメントなどが備えられていないので、要介護者(利用者)の意向に沿った在宅生活を支援する介護システムとなっていない。ヨーロッパ諸国での実情をみると、利用者の意向を強化するために現金給付制度を活用して利用者の生活の質を向上させながら公的介護支出もコントロールしていることがわかる。

日本の経験も考慮をしながら財政安定の戦略として重症度別の保険給付支出を抑制する方案を考えることができる。例えば、軽度者の場合、概ね施設サービスよりも単価の低い在宅サービスを利用する傾向にある反面、サービス利用者の数が多い。従って、そのような集団においては財政に影響を与えることが価格(price)よりも数量(quantity)であるので、軽度者の制度への進入を遅延させて、認定者の全体数を安定させることが必要である。結局、そのことが介護予防プログラムを強調する理由である。一方、重度者の場合、概ね在宅サービスよりも単価の高い施設サービスを利用する傾向にある半面、サービス利用者の数が少ない。従って、そのような集団においては財政に影響を与えることが今度は数量(quantity)よりも価格(price)に表われるので、施設給付の利用を抑制する方法や望ましくない受給期間、即ち入所期間の延長に繋がりやすい施設運営の在り方に対して再検討すべきである。そして、利用者が住み慣れた地域で介護サービスを受けられるように、在宅サービスを充実することが必要である。そのことが日本の地域密着型サービスを作り出した理由になるかも知れない。

 2.保険財政支出の決定要因に関する先験的分析の事例

OECD加盟国のデータを用いて財政支出の決定要因に基づく将来支出への影響度を分析したMartinsら(2006)の研究が参考になる。彼らはその決定要因を人口学的と非人口学的に分けているが、前者の場合は高齢化の主な原因である生活障害による依存率(dependency ratio)が、そして後者の場合はインフォーマルケアの比重とケア従事者の労働費用が主要決定因子として選定した。その結果をみると、ほぼすべての国における将来の支出増加は、人口的要因よりも介護人材などの労働費用要因によって影響されることがわかる(表1)。しかし、韓国の場合は他の国とは違って人口的要因の影響も非常に大きく、今後の著しい支出増加が見られる。また、彼らによる財政支出にまつわる予測値の分析結果を踏まえて、決定因子のコントロールに基づく支出減少効果を提示した主な点は、障碍依存率の縮小が財政支出率を0.5%ポイント減少させることができることと、現金給付などを含むインフォーマルケアへの公的支援はその支出率を70%減少させることができるということである。

表1

資料: Martins and Maisonneuve (2006).

 また、OECDデータに基づいて分析してみると、主要国におけるGDP対比介護財政支出率の差は施設保護率と後期高齢者率でよく説明ができると思われる。例えば、施設保護率が高ければ高いほど公的介護財政支出率が高くなることがOEC加盟国(4)のみならず、日本の都道府県別データ(5)を用いて分析してみてもわかる。 

従って、結論としては、依存率の増加やインフォーマルケアの低い活用をコントロールする方法を開発したほうが望ましいといえる。言い換えると、軽度の依存状態を見せる虚弱高齢者を効率的にコントロールして依存者数の増加を抑制することができる方法や、家族による介護を公的で支援することができる方法を探ることが求められる。

 図4

資料:OECD(2005).

図5

 資料:厚生労働省、2008年度の介護保険事業状況報告、介護給付費実態調査および

介護サービス施設・事業所調査

 V. 結論:韓国老人長期療養保険の財政安定化方案

 韓国の老人長期療養保険制度は日本の介護保険制度を参考にして、更にドイツの制度などヨーロッパ諸国の制度も検討した上で創設されたと言える。一般の介護保障制度は各国における国民の生活習慣、社会保障方式、財源調達力や政治的状況などによって異なってくるので、これからは韓国の実情に合う制度に発展させるべきである。そのような方向性を考えながら整理してみると、次のように述べることができる。

 1.基本前提

療養保険財政の安定化側面から今後の韓国老人長期療養保障制度を改善するためには次の三点を中心として検討することが望ましい(図8)。

一つ目は、利用者(消費者)本位の介護システム(consumer-directed care system)を構築すべきである。現在の制度では利用者が施設サービス、あるいは現物形態(給付)の居宅サービスを選択するしかない。もし、要介護者が家族からのケアを受けたいとき、家族などのインフォーマル介護者が仕事を一時的に休職して介護に専念したいときにそれを支援することができるような制度を現在は考慮していない。また、要介護者が自宅で介護されたくても(ケアプランによって)事前に定められた日や時間しかサービスを利用することができない。従って、事前に定められたケアプラン以外の日や時間での必要なケアは家族が負わなければいけないので、現在は保険があるけれども無報酬の家族労働が強いられているに違いない。今後は利用者のニーズに合わせながら家族の介護労働を社会的に認めることができるシステムを創るべきである。

二つ目は、適正なケアの概念やサービスの質に対する再定義を設けるべきである。確かに現在の制度では施設サービスと居宅サービスとは量や質において差があるが、場合によっては施設でのケアの量が適正水準以上に提供されていると言ってもよいくらいである。即ち、施設でのケアが過少になってはいけないが、過剰になってもいけない。特に過剰のケアは望ましくない要介護期間を延ばすことにつながる可能性もある。そして、家族によるケアと専門的療養保護士[5]によるケアとの間にケアの質の差があまりにも見えない状況では、サービス利用料の高い専門的ケアのみを認めることとなり、療養保険制度の費用増加型に誘導する要因となり得る。また、ケアの質を考えるときに必要なことは、供給者側ではなくて利用者側の立場で評価し、評価基準を作り出すべきである。

三つ目は、療養保険と地域保健福祉事業との連携(continuum of care)を構築すべきである(図9と図10)。高齢者集団を健康水準指標である日常生活動作(ADLとIADL)に基づいて区分すると、VerbruggeとJette(1994)によって開発された障碍過程(disablement process)に従って、元気な高齢者、虚弱高齢者および障碍高齢者に分けられる。勿論、高齢者全体の中で元気な高齢者の数が一番多く、障碍高齢者の数は一番少なくなっているといえる。従って、長期療養保険制度は他の高齢者福祉制度とは切り離れているのではなく、お互いに繋がっており、影響を与え合っている。例えば、要介護状態の原因が老衰を除く、脳卒中、高血圧、関節炎、転倒や認知症などの生活習慣と関わる疾病や事故となっており、地域水準で虚弱高齢者の健康や生活を支える地域サービスが不足すると、間もなく要介護状態に陥って要介護高齢者が増えることは当然である。従って、要介護認定を受けなかった非認定の虚弱高齢者に向けてのサービスを所得水準を問わず、提供すべきである。

図8図9図10

資料:著者が作成


[5] 韓国の療養保護士はホームヘルパーを意味しているが、1級の療養保護士資格を得るためには240時間の教育を履修しなければならない。しかし、療養保護士の7割が40~50代の女性が占めている。

 2.今後の長期療養保障体系の方向

韓国における老人長期療養保障体系を図で表すと、次の[図11]となっている。即ち、要介護認定を申請した後、療養保険制度からの給付が認定された要介護高齢者と、軽い要介護状態にあるが療養保険からの受給が受けられない非認定高齢者に分けられている。2009年度現在、1~3の療養等級に認定された要介護高齢者は施設サービスや居宅サービスを利用することができるが、2009年度までは療養等級3(中度者)の場合、施設拡充の不足を理由として居宅サービスしか利用できなかった。そして、療養等級4以下(軽度者)に認定された高齢者は国家予算を財源として用意されている老人ドルボムサービス制度[6]から介護サービスや生活支援サービス、また生活安否などの見守りサービスを受けることになっている。

しかし、現在は両方の制度において療養保険制度ではサービスを利用しない高齢者がいるし、老人ドルボムサービス制度ではサービスを利用したくても利用できない高齢者がいるという問題が残っている。前者の場合は保険サービスを利用するときに支払わなければならない自己負担金などの経済的負担、あるいは病院入院や家族介護の理由でサービスを利用しない高齢者がいるが、その大部分を占めているのが一般所得水準の高齢者である。言い換えれば、保険給付の受給権が与えられても自発的であれ、非自発的であれ、保険給付を受けられないということである。一方、後者の場合は老人ドルボムサービス財源が国家予算であるために最初から一般所得の高齢者は排除されているので、サービスを利用することができない。結局、現在の療養保障制度では療養保険料の主納入者である一部の一般所得者にとって不利となっていると言える。

従って、今後の療養保障制度を望ましく再構築するためには、制度内的としては、利用者本位のシステムを作るときに在宅での要介護高齢者に現金給付(cash benefit)をも認めて、家族員などのインフォーマル介護者であれ、専門的介護者であれ、利用者(要介護者)が願っている人からサービスを受けることができるようにした方が望ましい(図12)。このことによって、インフォーマル介護者と専門的介護者との間で善意の競争を呼び起こしてケアの質を向上させることができ、高齢者が要介護状態になっても尊厳を保ちながら暮らすことができ、今も大きな話題になっている介護人材の不足問題もある程度、解決することができると考える。

最後に制度外的としては、療養保険制度と保健・医療・福祉制度間の連携体系を作らなければならない。韓国の場合は既述したように非認定者のための老人福祉サービスが整えられているので、所得水準を問わず、非認定者であれば漏れなくそのサービスを利用することができるようにさせなければならない。それ以外には健康づくりサービス(保健)と、回復期リハビリサービス(医療)と、介護サービス(福祉)という連携的流れに基づいて、介護予防を念頭においた健康づくりやリハビリシステムを構築しなければならない。


[6] ドルボム(dol-bom)という用語はお世話とかケア、あるいは介護の意味も持つ漢字なしのハングルであるが、お世話をする者や介護者をハングルでドウミ(do-u-mi)と呼んでいる。 

 

 [図11] 現在の韓国老人長期療養保障制度の枠組み

図11

資料:著者が作成

図12

{参考文献}

Martins, J.O. and Maisonneuve, C.,“The drivers of public expenditure on health and long-term care: an integrated approach”, OECD Economic Studies, No.43, 2006.

OECD, Long-Term Care for Older People, The OECD Health Project, Paris, 2005.

Verbrugge, L.M and Jette, A.M., “The disablement process”, Social Sciences & Medicine, Vol.38, No.1, 1994, pp.1-14.