高連協「第2回高齢社会研究フォーラム」報告
世界で高齢化のトップを走る日本において、特に高齢者(シニア)の生活行動・社会活動が、社会経済に及ぼす影響についての考察・究明を図ることを目的に、高連協が東京大学高齢社会総合研究機構の協力で始められた「高齢社会研究フォーラム」は、第2回目を迎え、1月14日(木)14:00~16:30に東京大学医学部教育研究棟第6セミナー室で開催された。
第2回研究フォーラムでは、2009年夏に実施した「高連協オピニオン調査」の結果内容が報告された後、後藤芳一氏(経済産業省製造産業局次長)による「高齢者の積極的な社会参加」の講演及び、「高齢者の役割を考える」と題した討論が行われた。なおオピニオン調査の結果概要は印刷版が出ており、結果報告はその概要を用いて行われた。希望者は、高連協事務局へ連絡(℡:03-3542-0363、資料代1,000円)にて概要を入手可能である。
以下にフォーラムの(概要)を紹介する。(以下敬称略)
高連協オピニオン調査の結果報告
発表者:吉田成良(高連協専務理事)
本調査は2009年6月から9月にかけて、「高連協」加盟団体の関わりで活動する中高年者2,000人を対象に、郵送にて実施した調査である。有効回答は1,040人で、回収率は52.0%であった。調査内容は、年齢・性別・家族構成・健康状態などの基本属性に加え、社会的活動や趣味の内容、メディアの活用、食事や住居、望む制度やサービスなどである。高齢者調査の多くは高齢弱者を対象としたものであるが、本調査は元気な高齢者を対象としており、貴重な調査である。
回答者は男性が約56%で、65歳以上が全体の7割強を占める。家族構成は、夫婦二人世帯が51.9%で最も高く、次いで夫婦と子ども(22.3%)、一人暮らし(11.3%)が続いた。主な収入源は年金が82.0%と大多数を占めている。
生きがいや楽しみとしては人との交わりが主であり、趣味活動が61.1%で最も多く、知人や友人との会合(55.1%)や家族とのくつろぎ(50.9%)も半数を超えている。また健康状態を見ると、自らを健康と考える人は81.4%である一方で、不安や悩みとして自分の健康をあげる人が65.5%と、3人に2人の割合であった。
社会的活動に関しては、女性の75歳以上を除いて9割以上参加しており、健康ではないが活動している人も含めて全体で93%の人が活動している。一般高齢者と比較して回答者の活発な社会的参加状況が窺える。但し、活動内容で多いのは、無償ボランティア(41.8%)や地域社会活動(38.3%)であった。
メディアの活用として、ニュースを知る媒体を聞いたところ、最も多いのは新聞(88.1%)とテレビ(85.1%)であった。またテレビの視聴は特に70歳以上の女性に多かった。外出時の交通手段では、公共交通機関が最も多く56.7%、続いて歩きが52.2%であった。
居住意向としては、今後も現在の所に住み続ける人は9割近くおり、特に男女とも75歳以上に多くなっている。また老後の住居意向として現在の家をあげる人は8割であった。
食事や飲み物については、主食は米飯食と答えた人が96.4%と大多数を占める。よく飲む飲料は日本茶(78.3%)・コーヒー(58.5%)・水(41.3%)であり、好きなアルコール飲料はビールが過半数(51.2%)を占めた。ただしアルコールを飲まないという人も24.3%いた。また食事を作る人は誰か、という質問に対し、女性は92.6%が自分自身をあげ、男性は87.8%が配偶者をあげた。一方で男性の31.8%は自分自身もあげているのに対し、女性が配偶者をあげたのは9.6%にとどまった。
趣味の活動については、屋内では読書が最も多く64.5%であり、音楽(36.1%)や映画・DVD鑑賞(25.2%)などが続いている。ただし性別によって活動内容に差が見られ、例えば男性では読書・囲碁・将棋などが多い一方で、文通・メール、料理などは女性に多い傾向が見られた。屋外の趣味では旅行が最も多く、過半数(52.3%)を占めた。続いて音楽会・観劇(34.3%)やガーデニング・盆栽(27.1%)があげられた。70歳代前半男性の7.8%は料理教室に通っているという状況も見られた。
高連協提言にも一部反映させた「社会に必要と考えていること」では「総ての世代が心豊かに暮らせる社会立国などの国づくり」が63.0%で最も多く、「制度や社会システムを長寿社会対応の観点から見直す」が53.5%であった。あればよいと思う制度やサービスについては、「終末期間に対応した一定額免税の貯蓄・預金・保険など」が59.8%で最も多く、次いで「日本国中で利用できる官民合同のリバースモーゲージ」が42.5%であった。回答者自身の提案としては「健康手帳の一元化」や「健康に努めている高齢者へのインセンティブ」などがあげられた。最後に社会的責任(CSR)を遂行している推薦企業をあげてもらったところ、資生堂(12票)等100社程の企業が推薦された。
今回の調査は、提言作りが目的であった。高連協は、2000年以来6回のオピニオン調査を実施しているが、残念ながら、未だに元気な高齢者に対する社会の関心は低い。今後の高齢社会の主体ともなる高齢者の社会経済に及ぼす影響を考察する上でも、この類の調査は重要であり、この調査が役立つことを期待している。
(この調査内容については後日改めて研究会が催され、興味深い考察がなされている。詳細は後日紹介予定。)
高齢者の積極的な社会活動:今後の期待と活躍の事例
講演:後藤芳一(経済産業省製造産業局次長)
今日は、元気な高齢者がどのように活躍しているのか、主に「モノづくり」と「考える力」の2点からご紹介したい。
まず「モノづくり」に関しては、経験が非常に大切であり、70歳を超えても活躍の場は多くある。例えば「痛くない注射針」を開発し、2005年度グッドデザイン大賞を受賞した、従業員6人の岡野工業株式会社の社長は、昭和8年生まれである。また「Japan Venture Awards 2007」で「シニア賞」を受賞した、工業用素材メラミックスの製造株式会社イスマンジェイの渡邊社長は、64歳で創業し、現在70代である。このような専門的技術までいかなくても、シニアのアイディアによる事業例として、有限会社完装の深見氏(現在70代)が10年以上前に開発した「バック駐車お助け反射シール」があげられる。病気でしばらく自身の首がまわらなくなったことから、駐車の際に後ろを向かなくても、駐車場の壁や塀にシールをはりテールランプを反射することで、サイドミラーで確認しやすくするものを開発し、現在は全国で数万台分とりつけられている。
「考える力」や研究分野でもシニアが活躍している例が多くある。自分が教えている日本福祉大学大学院でも熟年学生がおり、若い学生たちの相談役になってくれているほか、修士論文で地域の経済効果を調べたことから地域で様々な依頼を受けるに至った人もいる。また若い研究者にとってはノルマが課されている状況が多い中、熟年者は時間をかけて自分の知らないことを研究できるという強みもある。例えばカマキリが積雪の量を当てることを立証したり、川端康成の文体が終戦直後に大きく変化していることを分析で明らかにしている例が、新聞などでも紹介されている。
このように、活躍するチャンス、学ぶチャンスは今からでもあるのだ。
討論:高齢者の役割を考える
司 会:樋口恵子(高連協共同代表)
パネリスト:後藤芳一(経済産業省製造産業局次長)・堀田力(高連協共同代表)・吉田成良(高連協専務理事)
樋口:高齢者の割合は年々増え続け、今は人口の約1/4が65歳以上、約1割が75歳以上となっている。平均寿命の延びも伴い、今後は高齢者と時間の関係をプラスに転化することが重要で、高齢者の役割が問われている。今後は高齢者のイメージが変わり、新たな発想の時代となる。例えば社会活動として仕事があげられるだろうし、祖父母力も益々重要になるだろう。AARPでも世代間交流が掲げられている。そのような中で、高齢者の役割についてのお考えを聞かせていただきたい。
堀田:子作り・子育てが終わっても、普通に生きているのは人間くらいだが、それはつい最近のことである。子育て以降をどう過ごすか、動物史上初めてといってよいような状況の中で、人間が最先端を行き、何のために生きるかが問われている。私は、「自分のために」「自分の命を大切にして生きる」のだと考える。具体的にどう生きるのかについては、参加者それぞれに問いたいが、自分の能力を活かして楽しく生きること、それぞれの状況に応じて役割を作り出すことが大切だと思う。そして若者に手本を見せていきたい。
樋口:「楽しく生きる」という意見に特に共感した。私たちはロール・モデル(手本)を作る初代でもある。先日私と大熊由紀子さん、上野千鶴子さんで対談を行い、これは出版を予定しているのだが、タイトルは「女ざかり」と決めている。人生に対して色気を持つのも高齢者の役割ではないだろうか。
吉田:私はこの調査から、皆が幸せになろうということで活動しているシニアの思いも感じている。
樋口:後藤さんは、ご自身の親の世代の実態をご覧になってどう感じるか?また、ご自身も老いにさしかかってきているが、どう考えるか?
後藤:私の母親は、樋口先生と同年輩。私はよく中小企業の人と話すときに「これからじゃないですか」と言っている。生物的あるいは家族の役割が変わっても、新しい所で活躍できるのではないかと考える。例えば趣味の活動でも生き生きとできるのではないだろうか?自分自身は、あと数年で退職となるが、未来がまだ見えない状況なので、先輩方のご意見を伺いたい。
堀田:いくつになっても一人ひとりが主人公になる。どのような状態になっても、その精神を失わず、最期まで貫きたい。実際に中年や若年者が高齢者をどう考えているのか、高齢者のことを本当にわかっていないと感じる。福祉関係者の多くも、高齢者には「してあげなくては」というイメージが強いと感じる。彼らはまた子どものこともわかっていないと感じる。子どもたちもまた主人公であり、自分自身とかわらないのだ、ということをわかってほしい。それによって福祉も変わるだろうし、真の尊厳につながるのではないだろうか。
樋口:私は昨年半年だけ要支援1になり、色々と学ぶことが多く貴重な経験をした。「ケアが必要な有名人」としての立場で、どのように尊厳ある弱者になるか。頭は下げるが胸を張って生きたい。人は年には勝てないわけで、現役時代の役割に関わらず、寿命は延びても必ず存在するのである。
堀田:究極の尊厳は、体が弱くなったとき、弱者になったときのプライドの保ち方ではないだろうか。自分は「かわいい人」になりたい。そういう人は、上手に人を使っている。「かわいさ」を活用し、わがままに、自分をしっかり生かす。いわば「わがバー」や「わがジー」になり、生き方上手になりたい。一方で元気な高齢者はどうかというと、特に男性は、元公務員や元大企業の人に、「頼らない」人が多いと感じる。
吉田:本日参加されている方々のお話もお聞きしたい。まずは健康寿命の研究者の齋藤教授に、続いて韓国で介護保険作りに貢献された鮮于先生、高齢者施設で長年の経験を持つ藤井さんにコメントをお願いしたい。
齋藤:平均寿命と同様、近年は健康寿命も延びている。ただし重要なのは、健康寿命の割合を高くすることである。なぜ寿命が延びているのかについての研究も必要で、例えば胃ろうなどの延命措置の影響も考えられる。樋口先生の「ケアされる立場」の体験は、とても参考になった。
鮮于:色々な話が参考になった。韓国では日本の介護基準の要支援者は保険対象外だが、そこに該当する人たちの健康が課題になっている。元気高齢者の調査は、予防の視点からも大切だと考える。
藤井:高齢者施設で働いていて感じたのは、作られた時間や空間の中で利用者と職員が演じており、どう演じるかが評価につながるのではないか、ということである。しかし演じることを24時間続けるのは大変である。今は障害者福祉の分野で働いているが、障害者の高齢化も課題となっている。時間の有効な使い方に関して、自分の空いている時間を積極的に使っている人は生き生きとしていると思う。
最後に司会の樋口氏より、高齢者が様々な提言や学問に関わることで、社会を変える一助となりたい、という挨拶があり、討論が終了した。
<山田嘉子:記>








