21世紀現在、世界で最も人口高齢化が進み国際的にも注目されている我が国において、高齢社会の動向を見据えつつ、この時代を生きる我々、特に高齢者(シニア)の生活行動・社会活動が、社会経済に及ぼす影響についての考察・究明が求められている。
高齢者の社会参加活動の推進を掲げる高齢社会NGO連携協議会(高連協)の諸活動は、加盟団体会員等による「高連協オピニオン調査」を基にしており、時により「高連協提言」を作成して世に訴えている。この研究フォーラムは、この程発表した「高連協提言」を機に、「高連協オピニオン調査」による高齢者の実情調査などから今後の社会経済を考察する研究会として、高連協が東京大学高齢社会総合研究機構の協力で開催したものである。そして、第1回の研究フォーラムは、11月9日(月)14:00~17:00東京大学医学図書館333号室で開催された。
第1回研究フォーラムでは、去る8月11日に為政関係者各位に提出し、現政権の主要閣僚からも謝辞・返信を頂いた「高連協提言」を解読(吉田成良高連協専務理事)の後、提言内容を基に、予測される我が国の人口・社会構造において、全ての世代が心豊かに暮らせる社会を実現するための社会保障制度の在り方、高齢者の在り方等を究明し、研究フォーラムの意義・目的などを語り合うシンポジウムが開かれた。
以下にシンポジウムの内容(概要)を紹介する。
シンポジウム
司 会:堀田 力(高連協代表) <敬称略>
パネリスト:樋口恵子(高連協共同代表)・甲斐一郎(東京大学教授、老年社会学会会長)
助 言 者:吉田成良(高連協専務理事)
本シンポジウムでは、「高連協提言」内容を、「目指す社会(提言1・2)」、「社会保障(提言3)」、「就労・社会参加その他(提言4)」の3点に分けて議論を交わしたい。そして、シンポジスト及び司会者からの発言の後、フロアからの発言、討論を行いたい、と司会者からの発言で始められた。<以下、主な発言概要>
1.目指す高齢社会
甲斐:自分の専門分野での経験上、障害のある高齢者と関わることが多いが、実は健康な高齢者が大半である。このため、例えば高齢者のプロダクティビティ(生産性)をどう保つか、どう活用するかといったように、健常高齢者への対応が重要になる。プロダクティビティの中には、有償労働やボランティアだけでなく、趣味や娯楽の活動も含まれる。
欧米の研究によると、身体が元気であることや精神的若さなどがプロダクティビティと相互に関係あるという結果が出ている。しかし、障害があっても、自分の現在の身体的健康の中でどう幸せでいられるか、つまり「生活の質=QOL」という考え方が出てきた。それには「適応のよさ」が重要であり、障害があってもそこから新しい生きがいや出会いを見つけていくことが可能となる。
樋口:今日現在、一言で言うと「人生100年、すべての世代に居場所と出番」である。この100年あまり、我々は大きく3度の「維新」を経験した。1つ目は明治維新であり、文明開化などがキーワードとして挙げられる。2つ目は敗戦時であり、この時には主権在民や平和主義などが謳われた。そして、2000年前後からは、「平成維新」ともいえる、長寿・人生100年の時代となり、一人ひとりの生き方への影響という意味では、この「平成維新」が最大ではないかと思われる。日本は、地球丸ごと高齢化の中でトップに立つが、特に役所・研究者・男性の覚悟が足りないように思う。高齢社会はジェンダーとも深く関わりがあり、私は「BBBP=貧乏ばあさん防止プラン」を提唱している。高齢女性の貧困化は今後深刻な問題になるからである。また、人生100年の健康をどう保つかも大きな課題である。自分自身は最近大病をして悔い改めた。介護保険なども人生80年くらいの設定であり、これから人生100年社会に向けて、社会がどう改めるかが課題となる。
堀田:これからは、政府や企業主導ではなく、各人が活躍し開花できる「人間開花社会」を目指すべきである。まず仕事があって各人がそれに合わせるというよりは、まずその人の能力を生かすことが重要である。このため、提言2にある「高齢者をはじめ総ての世代の人々が生きがいを持ち、心豊かに暮らせる社会の実現」という目指すべき社会は、まさにそのとおりである。
フロアより①:提言に賛成である。大半の高齢者は健康であるが、居場所や出番が地域で不十分と思われる。政府は、「前期高齢者は就労を」と言っているが、企業からの場所の提供は十分なのだろうか。また、セーフティネットの確立は、民間だけでは難しい。このような意味からも、高連協の重要性が期待される。
フロアより②:生きがいやサクセスフル・エイジングというのは主観的なものと思う。若者には基本的な学問(心理学や哲学など)、日本人としての存在感を学んでほしい。
フロアより③:高齢社会というのは、問題というよりは、我々が長寿を求め努力した結果であるということのアピールが欠けているのではないだろうか。高齢社会は成功の例であるということを、若者に認識してほしい。
2.社会保障
甲斐:提言3の最後にある「終末期」について、それを決めるのはなかなか難しい。癌の場合は比較的分かりやすいが、最近では延命技術の発達(例:胃ろう)により、昔であれば高齢者は「食べられなくなるとあと1ヶ月」と考えられていたものが該当しなくなってきている。また、延命技術を使うかどうかの判断について、自分の意思を表明できないこともあり、家族や医師が決めざるを得ないという状況もある。本人の意思の尊重とともに、刑法(特に処置をやめる場合)との関わりもあり、難しい問題である。
吉田:どれくらい他人に世話になって死ぬのか、「提言」にもあるように、高連協オピニオン調査では、平均終末期間を知りたい人が多かった。
甲斐:平均ならばある程度出せる。例えば健康寿命というものがあり、平均寿命-健康寿命=不健康な寿命、つまり他人の世話になる確率が高い期間の平均となる。また、亡くなる1年前の平均医療費や、認知症発症から死亡までの平均期間も出すことが可能である。終末期以外の話としては、近年では予防が重視されている。例えば介護予防では、閉じこもり・転倒・栄養などの予防策がとられている。ただし予防の効果は、測定の難しさや効果が現れるのに時間がかかるといったように、なかなか見えにくい。予防への取り組みはまだ始まったばかりのため、効果は今のところ見えていないが、重要な課題である。
樋口:このバラバラとなった社会で連帯の柱となる政策が望まれる。社会保障費を見ると、GDP比は日本の下にいるのはアメリカだけである。ただし負担も軽い。ここは腹を据えて考え直す時である。高齢者であっても、もっと払ってよい人がいるはずである。ただし、累進性を増してよいと思う。また子どもの数を見ても、他の国は子育て政策と男女共同参画により、いったん下がった出生率が上がっているが、日本・韓国・カナダは例外的に上がらない。これは生みにくい社会・育てながら働きにくい社会を示しているのではないかと思われる。
堀田:後期高齢者医療制度については、負担の問題はあるが、元に戻せばもっとひどいことになる。あるべき姿を出し、医療・介護・年金を含め、抜本的な改革が必要である。全体的に連携して負担することが重要であるが、それぞれの能力をもってしても、生活しづらい人はいる。そのような人々は、社会全体で支えるべきである。課題としては、社会保障負担の見直し・少子化問題への取り組み・介護保険での軽度者への対応などが挙げられる。また、これは反対意見が多いが、移民を推進し、当面を支える層を厚くすることを提言する。
3.就労・社会参加その他
樋口:60歳からの働き方については、高齢者自身が働きかけることも大切である。また健康状態なども踏まえて、年金をもらえる人ともらえない人との働き方は違ってしかるべきである。では年金生活者の働く場をどう創出するのか?例えば企業が定年退職者の第2会社を作ったり、高齢者自身の起業もあるだろう。成功事例などを高連協から発信してはどうか。また、高齢者の政治参加に目を向けると、国会議員の立候補に年齢制限を設けている政党があり、年齢的にアンバランスとなっているほか、政府の審議会にも定年制がある。高連協を含めて、プレッシャーをかけるグループとなり、特に生活に関わることについて高齢者が発言することは重要である。
堀田:年齢制限は憲法違反だと思う。高齢者と企業がともにWin-Win(ともに利益を得られる)仕事があるのではないか。例えば職場の指導・研修や、苦情処理などは、高齢者に向いた仕事と思われる。今後、高齢者の就労場所拡大が望まれる。
甲斐:東大ではAging in Placeというプロジェクトを行っており、健常高齢者のボランティアなど、社会参加について取り入れたい。また、アメリカのAARPのような活動も学びたい。AARPは加入メリットも多くあり、高連協でも似たようなシステムを作ってみてはどうかと思う。また、高齢者の声が小さく、今後発言力を増やすことが望まれる。団塊の世代は若い時に社会を変える動きを実践してきたため、今後高齢者としての活躍に期待したい。
○内閣府本多則惠氏(高齢社会対策担当参事官)より
大変勉強になった。感じたことや疑問点として、第1点目は、就労以外の年齢差別がどのように行われているかということ。年齢が組み込まれている制度の多くは、該当グループ(ここでは高齢者)へのメリット狙いのものが多いと思う。第2点目は、高齢者の活用可能性である。これはもっとできるのではないかと考えており、例えばシルバー人材センターでの、働き盛りの家庭支援なども挙げられると思う。第3点目は「地域参加は現役時代から」と言われるが、ワーク・ライフ・バランスを考えて、現役世代へのアドバイスがあればお願いしたい。
最後に司会の堀田氏より、これからも意見をもらいながら、より現実的な提言を作成したい旨の挨拶があり、フォーラムが終了した。
なお、次回研究フォーラムのテーマは、今年高連協が実施した「オピニオン調査」の結果(報告)とその内容の考察である。
「第2回 高齢社会研究フォーラム」開催<予定>
テーマ:「高連協オピニオン調査」結果の発表と内容の考察。
-自立する高齢者の生活実態と意識・行動ニーズ-
日 時:2010年1月14日(木)14:00~16:30
会 場:東京大学(本郷)医学部教育研究棟13階 第6セミナー室
○参加希望者は高連協事務局まで。
Fax:03-3542-0362
e-MAIL:soumu@janca.gr.jp







