普遍的長寿社会と世代間支え合い:日本の地域社会

普遍的長寿社会を享受しつつある長寿化先進国は、その社会環境として、すべての世代の相互理解と支え合いが必要不可欠と考えており、そのための国際会議「第1回・世代間連合国際会議」をハワイ・コンベンションセンターで2015年7月21-24日に開催する。会議を主催するのは米国のGenerations United(世代間連合)だが、日本の高齢社会NGO連携協議会(高連協)や欧米各国、アジアではシンガポール等の関係団体が共催している。日本からは樋口恵子(高連協代表)さんがキーノートスピーカーとして出席するほか、小川全夫、杉啓以子等十数名が会議で発表する。

日本の高連協は、1999年の国際高齢者年に活動を始め、「すべての世代のための社会づくり」を目指し、老若男女の支え合いにおいては先ず高齢者の社会参加活動の促進が必要である、と高齢者の社会参画運動を展開しており、世代間交流は高連協の各種イベントにおいて常時論じられている。ハワイ会議開催については、日本で催せないことを残念に思う日本の関係者も少なくない。

日本の世代間交流活動は、古くから続いている地域社会の生活文化の伝承があり、年長者、特に高齢者が孫世代に引き継いでいる祭事に関わる諸事の伝承等は全国各地で行われているが、今日目立つのは、高齢者による幼児・学童に関わる子育て支援活動と、学童による要支援高齢者の見守りや通行の助け合いなどがある。

また、世代間の相互理解と支え合いの意義を特別に意識することなく自然に行っている、人間社会のノーマルな行為として看ている地域も日本には顕在するので、その一例を紹介してみたい。

その地域社会は、総人口が約50万人、中核となる市の人口は約25万人、市の高齢化率は全国平均より約1ポイント高い割合でこの30年余り推移している。

約30年前の1985年、日本の高齢化率が10.3%になり、高齢者施策が盛んになっていた頃、この中核市(高齢化率11.2%)にはグループホーム的養護施設が1か所あるだけで、市の老人福祉費は極めて少額、医療費の増額のみが行政の課題とされていた。理由は、老後の生活の世話を公費で支えてもらいたくない、という住民意識が一般的な社会状況であった。

しかし、高齢単独世帯の増加もあり、1990年代になると特別養護老人ホームが中核市内に5-6か所設立されると、入居希望者も増え、施設不足が言われるようになった。そんな中、住民が行ったのが、特養設置のための募金活動だった。募金は専ら若い現役世代による寄付金、1人1万円以上を、5,000名を超える住民の寄付金が短期間で集り、市が提供した約2,000坪の土地に、スウェーデン式のユニットケア(約100名分)、ショートステイ(40-50人分)の本館及び2つのグループホームを併設した特養を設置している。既に、高齢者が憩う「いこいの家」は温泉付きで地区毎に在ったが、この特養の敷地内にも喫茶・軽食・ハンドメイド売店・談話室等のある建物(たまり場)があり、バザー開催・地産地消活動も行っている。

この地域の特性は、高齢者のいる三世代世帯が日本一高い割合であることだろう。1985年の国勢調査で見ると、高齢者三世代世帯の割合は、中核市で約60%であった。核家族化が進んだ2010年現在でも、子や孫と暮らす高齢者のいる世帯(高齢者の単身、二人世帯は除く)の割合は40%強で、市周辺の地域は50%を超える高い割合である。

介護保険制度の実施時(1999年)とその定期的な制度改正時に、全国の自治体が行った要介護高齢者の実態調査を基に、各市の協力でエイジング総合研究センターが実施した要介護(認知症を含む)者の出現率比較研究(2006-8年)があるが、この中核市では、特に認知症出現率が他都市と比べて低い状況にあることを報告している。そしてその理由としては、子・孫と共に暮らす高齢者が多いことが挙げられ、その高齢者が社会と多様多数の関わりを持っていることに因ると考察している。この地の高齢者が言う「孫のお守りでボケる暇ない」のは実状であろう。

またこの中核市では、高齢者と同居する子世代の子ども数が2人以上(1985年)であったこと、そして保育園と学童保育の活動に多くの高齢者が参加協力していることなども、エイジングセンターは以前に紹介している。

日本人口は、2005年をピークに以後減少に転じているが、この地域も同様で、この地の行政は今後の社会づくり構想を始めている。その構想は、かつてのような人口増加を夢見るのではなく、高齢化が進む中にも持続可能な明るい前向きな構想を思考している。とするならば、高齢化先進各国が進めようとしている「世代間の相互理解と支え合い」の社会環境を既に地域社会の特性として保持しているこの地域社会は極めて優位なこととなろう。但しこの地域社会は、三世代世帯が多いのは子の独立が遅い、後進性社会であると考えている者も多く、その優位な特性にはほとんどの住民は気づいていない。ここに紹介したのもそのためである。

(S.Y.)