「日中韓3カ国の高齢化専門家会議」報告

エイジング総合研究センター

東アジア地域の人口学者・社会学者・老年学者等の自由な研究交流の場として、1994年にエイジング総合研究センターが「東アジア地域人口高齢化専門家会議」を開催して以来、2012年まで、日本・台湾・韓国・中国の関係機関が持ち回りで開催してきたが、2013年からは中断している。
この会議の再開を望んでいる中国・韓国の関係専門家がこのほど来日し、2015年2月17日(火)、「日中韓3カ国の高齢化専門家会議」を開催したので、ここにその概要を紹介する。なお本報告は、東アジア地域の会議開催に尽力されてきた中・韓両国、台湾、シンガポールの関係専門家にも送信する。

<会議概要>
● 日時:2015年2月17日(火) 午後2時~4時30分
● 場所:エイジング総合研究センター会議室
● 主な参加者(敬称略):李誠國(慶北大学医科大学教授)、馬利中(上海大学教授)、甲斐一郎(東京大学名誉教授・日本老年学会理事長)、嵯峨座晴夫(早稲田大学名誉教授)、梅原健次郎(仏教大学前教授)、佐々井司(社会保障人口問題研究所室長)、吉田成良(エイジング総合研究センター)他
● 会議次第:日本側関係者から会議開催の主旨と関係資料(人口動態・寿命・生存率・高齢化の推移等)の説明を行った後、馬利中氏及び李誠國氏より中国・韓国の状況に関するお話があり、日本からの参加者も交えてディスカッションが行われた。なお内容を整理するために、以下のまとめは実際に話された順番と若干前後していることに留意されたい。

<中国の高齢化事情:馬利中氏>
2013年、中国の高齢者人口(60歳以上)は2億200万人に達し、総人口の14.8%を占めるようになった。また高齢化率が7%となったのは2001年であり、これが14%に達するまでの所要年数は26年、つまり2027年前後になると予想され、日本の24年に近いスピードで高齢化が進行している。中国における平均寿命は、男性が74歳、女性が76-77歳であるが、上海のみで見ると、男性が80歳で日本より1年長く、女性が85歳で日本より1年短いという状況である。
中国における高齢化の特徴は、(1)「未富先老」(豊かになる前に高齢化が到来)、(2)都市化の進展によって農村部から多くの若者が都市に流入し、その結果、農村における高齢化のスピードが都市部より速く、深刻な高齢化問題に直面していること、(3)年金の積み立て不足の深刻化等である。
中国における急速な高齢化の原因は、新中国初期の高出生率と平均寿命の延び、そしてここ30年来の出生率低下等によるものである。出生率の低下は「一人っ子政策」だけによるものではなく、育児コスト上昇等の他要因も影響している。このため、「一人っ子政策」だけを調整しても、高齢化の緩和には微々たる効果しかないと考えられる。また、中国では人口や経済状況等で地域差が大きいため、地域別の対応が重要である。
今後の経済状況は、労働力市場に大きく影響を受けるであろう。例えば、経済力の強い地域で高齢化のスピードを抑えられれば、国全体として人口ボーナスをより長く享受できるようになり、産業構造の調整や社会保障制度の整備のために費やせる時間もより多く得られると考えられる。中国では2004年頃から沿岸部を中心に、労働力の供給不足と賃金高騰が見られており、「中国経済は労働力過剰から労働力不足への転換点(=ルイス転換点)を過ぎてしまったのではないか」との議論が行われている。しかし人口学者の研究によると、これは供給不足ではなくミスマッチによるものであり、また農村には依然として労働供給能力がある、と言われている。
今後中国が目指すべきものは豊かな高齢化社会への発展である、とした上で、(1)在宅介護の条件を改善して農村における養老問題の解決を図ること、(2)都市と農村の間における社会保障制度の障壁をなくして社会融合を進めること、(3)一人っ子政策を調整し、高齢化によるリスクを最小限に抑えること、(4)シルバー産業を発展させ新たな経済成長のエンジンとして育成することが提案されている。
日中経済関係について見ると、日本が比較的優位にある高齢者介護施設・福祉機器・医療品では、中国への輸出増加が今後も見込まれており、日本のサービス業投資拡大の潜在力も大きいとみられる。したがって、中国の高齢化は日本企業により多くのビジネスチャンスを提供するが、中国での投資に際しては労働力コストが上昇を続けることに留意すべき、と指摘されている。また介護サービスを含めたシルバー産業について、日本から学ぶべき点が多くある。例えば2013年1月に開催された「上海市における認知症介護サービスの展開」に関するシンポジウム(上海社会科学院主催)では日本企業も協力し、日本のグループホームや訪問介護等の海外展開に関する調査報告が発表され、出席した地域の幹部も大変喜んでいた。

<韓国の高齢化事情:李誠國氏>
韓国では高齢化率(65歳以上)が12-13%であるが、農村部では20%を超える地域も多数ある。平均寿命は男性が76歳、女性が83歳である。韓国では前期・後期高齢者といった区分けをあまり行なわないため、区分けされたデータや資料も少ない状況だが、今後は必要となるだろう。
韓国でも2008年に介護保険(老人長期療養保険制度)が始まったが、数々の問題を抱えている。1点目は、十分な検討が行われず、政治的な事情で制度が始まったことである。準備は2000年頃から始められたものの、それでも準備不足の感が否めない。日本では、介護保険が始まる前に「ゴールドプラン」があったが、韓国でも同様の取り組みが必要であったと感じている。2点目は、韓国では保険制度が開始される前、生活保護対象者は関連施設を自由に利用できたが、保険制度開始後はそれができなくなってしまったことである。農村部ではそれでも地域の助け合いや集まれる場所があるが、都市部では事情が異なり状況は厳しい。3点目は、ケアマネジャーの不在である。保険公団がこの役割を自ら担うと謳っていたが、実際にはそれが実現されておらず、ケアプランもない状況である。現状としては、介護職である「療養保護士」によるサービスが中心となっている。4点目は予防への意識が低いことである。例えば韓国では施設に入所しないとリハビリ等のサービスが受けられない。制度としても国民全体としても、予防に関する教育が今後必要であり、そのための資金も投入される必要がある。
韓国では2012-2013年に百歳高齢者の面接調査を行い、その結果からいくつかの特徴が示された。例えば(1)体をよく動かす、(2)1日3回規則正しく栄養バランスのとれた食事を摂る(主に嫁が食事を準備する)、(3)タバコや酒を控える、(4)苦労の連続であったが前向きな心構えを保つ、という点が挙げられる。今後も調査を行い、私たちの百歳高齢者調査は、日本の山口県立大学の先生方との協力調査でもあるので、将来的には日韓共同で書籍を発行したいと考えている。

<日・中・韓の高齢化事情:ディスカッション>
両氏の発表内容等に基づき、日本からの参加者も交えて日中韓3カ国の高齢者事情に関して討論が行われた。
● 高齢者の労働・居場所・社会活動
中国での労働力に関する話題から、高齢者の労働・居場所・社会活動に関する討論が行われた。中国での定年は、男性が60歳、ホワイトカラーの女性が55歳であるが、レイオフ等も含めて実際の平均退職年齢は52歳前後との指摘もある。定年延長を求める動きもあるが、これには反対も多い。というのは、高齢者の多くは定年退職して孫の世話を行いたいと考えているからである。また大卒者の就職難が問題となっており、多くの学生は就職が決まらず大学院に進学している。そのような中で、定年延長によって高齢者が職場に残ることへ反対する動きも見られる。若者の就職難とそれに伴う大学院への進学は、日本でも似た状況である。
他方韓国では、定年よりもさらに広い概念で、「高齢者は何歳からを指すか」という議論が行われている。韓国人の多くは「70歳から」と感じているようである。また韓国では、高齢者の居場所づくりが課題となっている。現在では高齢者の居場所として存在しているのは敬老堂くらいであるが、高齢者の機能が低下すると、「周りの負担になるのではないか」という気持ちから利用を躊躇する人が多い。日本のデイサービスのように、自宅以外のインフラが必要と思われる。
● いびつな人口構造
急速な高齢化は、日中韓3カ国に共通する課題である。韓国では家族計画システムの開始以降、出生率が急激に低下し、現在では合計特殊出生率(TFR)が日本よりも低い状況である。他方、中国では一人っ子の親の問題が顕在化しており、例えば上海では60歳以上人口の8割で子供が一人という状況である。中国全体では1979年に、また上海では1976年より一人っ子政策が実施されてきたが、これが最近緩和されたものの、2人目を生む人は少ない。
日中韓で共通して見られるのは、結婚する若者の減少及び子育ての困難さである。3カ国ともに、若者の傾向として「草食系男子」と「肉食系女子」の増加が見られ、韓国と中国では、文系・理系を問わず優秀な学生の大半が女子である。このような状況の中で、結婚する若者の割合は減少しており、韓国では特に農村部で外国人(例:フィリピンやベトナム出身者)との結婚が多く見られ多文化家族が増加している。また、韓国も中国も学歴社会等で子育てが非常に困難であり、これもまた少子化に影響を与えている。
また、日中韓ともに高齢化の状況に大きな地域差が見られる。どの国でも人口が都市部に集中し、都市部での出生率が非常に低いのが特徴である。またどの国でも農村部で人口減少や高い高齢化率が見られる。日本では最近、主に出生率データを基にして、人口減少等で将来的に「消滅する」と予測される自治体名が発表された。しかし2010年の国勢調査データを見ると、11町村で高齢化率が50%を超えているものの、これらの自治体は十分機能しており、高齢化率のみで判断するよりもその中身、つまり「質」を見る必要性が示唆される。
● 人口学研究者の減少
韓国では家族計画の終了とともに、人口学や母子保健を研究したり学んだりする者が減少しているという傾向が見られる。中国でも、人口学研究所は存在するものの、名称のみであまり機能していないというのが現状である。他方、欧米では現在も人口学の研究が熱心に行われているという印象があり、今後アジアにおける方向性が問われるところである。

会議後には懇談会が行われ、会議での内容がさらに深められた。中でも議論を集めたのは、日本の高齢化社会の取材を続けている韓国文化放送(MBC)が2015年1月13日にエイジング総合研究センターで行った取材に関する話題である。テーマは「労働力の展望」で、取材では「15-64歳人口を生産年齢人口とみなせない社会となっている日本では、増加する高齢者人口をどう支えていくのか」という問いかけがあった。この質問に対する回答として、例えば2014年に出版された「大転換期:日本の高齢者事情」で高橋重郷氏(明治大学教授)が、「働いている高齢者も含めた実労働力人口(支える人口)」と「働いていない高齢者人口(支えられる人口)」との関係は、1970年から2010年まで、1.5人対1人の割合で変わらず推移している、と記述していること、また国の法制度としては、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)」があることなどを紹介した。